『奇跡のリンゴ』

奇跡のリンゴ―「絶対不可能」を覆した農家・木村秋則の記録

奇跡のリンゴ―「絶対不可能」を覆した農家・木村秋則の記録

NHK『プロフェッショナル』での放送後、異例の大反響を呼び、茂木健一郎氏も「これは書籍化するべきだ」と言って実現した農家・木村秋則氏が無農薬リンゴを生み出すまでの半生記。

一つのことに狂い、人生を捧げ、その結果科学でも証明しきれないような「奇跡」を起こしてしまう彼の情熱に何度も胸が熱くなる。


彼は「無農薬でリンゴが作れるはずだ」という根拠のない確信から4つあった畑全てで農薬を与えないリンゴ作りを始める。
その結果、リンゴの病気は蔓延し、害虫は大量発生、葉は全て落ち、畑は荒れ放題の始末。
周りの農家からは後ろ指を指され、家族もその日の暮らしに困る困窮生活を送ることに。


思いつく限りの方策が全て失敗に終わった彼は、ついに首をくくる決心をして山の中へと迷い込む。
しかし、そこで偶然見つけたのは、ドングリの木。
農薬などなくても虫に荒らされることもなく、丈夫に育つ、本来の自然の姿だった。


彼はそこで自然のあるべき姿に気付く。
正しい食物連鎖は害虫の大量発生を抑え、山の土のような柔らかい土はリンゴを強く丈夫にすることを促進する。


そして、自然の力に気付いた彼はさらに試行錯誤を繰り返し、ついに9年ぶりにリンゴ畑に「花」が咲くようになるのだ。


その体験を彼は、「私が頑張ったんじゃない。リンゴの木が頑張ったんだ」という。

人間はどんなに頑張っても自分ではリンゴの花の一つも咲かせることはできないんだよ。畑を埋め尽くした満開の花を見て、私はつくづくそのことを思い知ったの。
主人公は人間じゃなくて、リンゴの木なんだってことが、骨身にしみてわかった。それが分からなかったんだよ。自分がリンゴを作っていると思い込んでいたの。自分がリンゴの木を管理しているんだとな。私に出来ることは、リンゴの木の手伝いでしかないんだよ。


この気付きには単に生産者としての「農業」を超えた、自然への理解と人間の奢りへの戒めが込められている。

どうしても人間は(僕らは)自然を管理している、野菜を作っている、と思いがちだ。でも自然はそんなに単純でも簡単でもない。
ちょっと一部が崩れただけで、全てが崩壊するような絶妙なバランスの中で成り立っている。


どんな文明も機械もITも自然を超えることは出来ない。

どんどん便利になる生活の中で、自然の力に実感を持って気付ける機会はほとんどないのかもしれない。だからこそ、一日の中で確実にある自然との接点、「食物」に対して、もっと敏感になるべきなんじゃないだろうか。


文明の進化が行き着くところまでいって、その結果、自然へ目を向けることが少しずつできているのが現代かもしれない。
福岡伸一が読まれるのも、ロハスが受けるのも、もしかしたらその一端で。

何よりも人間だって自然の一部。
本能的に自然を求め、そこで癒されたり、生かされたりして、生命を謳歌しているのだ。

彼の生み出した「奇跡」にそんな当然のことを思わされた。
自然栽培農法:木村 秋則