「仕事道楽」

仕事道楽―スタジオジブリの現場 (岩波新書)

仕事道楽―スタジオジブリの現場 (岩波新書)

言わずと知れたジブリのプロデューサー、鈴木敏夫氏の仕事に関する著作。
ジブリの有名な作品での困難や今だから語れる裏話などを交えつつ、プロデューサーという仕事の彼なりの流儀を語る有益な一冊になっている。

彼の宮崎駿との出合いは面白い。
たまたま宮崎の存在を知った鈴木氏が、猛烈に興味を持ち、映画にも惚れ込み、ぜひとも話をしたいと思った。そしてとった行動はといえば、宮崎の傍にただ座っていた。しかも、始業の9時から夜中の二時まで一日中。
そしてあるタイミングで、たまたまルパンの台詞についてうまく返答したことで、知らず知らずに作品作りにまでの首を突っ込むようになる。作品への意見をズバズバ言ったのだ。その後、「あなたとの雑談が作品の方向作りに役立った」と感謝されるまでになってしまう。
この辺りの柔軟性と粘り腰には感服する。

また意見を言えるようになるための努力もすごい。
二人の監督と出会ってもっと付き合いたいと思うが故に、二人が言ったことは全て「取材ノート」に書く。そしてそれを夜中にまた書き写し、記憶する。毎日毎日その繰り返し。
そのことによって、的確に「相づち」が打てるようになる。
相手の素養が分かっていないと、作家に対して相づちすら打てないわけだ。

他にもプロデューサーとしての宣伝の考え、組織論、断言する重要さなどなど、参考になりうる話ばかり。もちろん仕事の規模はジブリには遠く及ばないのだけれど。

読んでみて思うのは、彼は物事を冷静に分析し、考え、少し先をシミュレーションして戦略を立て、プレゼンをする能力に長けているということ。
それは宮崎監督のような天才とはまた違った、しかし映画製作には欠かすことの出来ないタイプの才能なんだと思う。
どちらかというと、やくざのような決して優等生的な型にはめられない独自のスタンスが、世界中に前例のないジブリ映画を世に送り出すトリガーになっている。

宮崎駿の著作などとは全く別の視点で、それはすごくおもしろく読める。