『お金は銀行に預けるな』 勝間和代

遅ればせながら、話題になった投資術に関する新書を読んだ。
ある証券会社の資料請求に無料で同封されていたのだ。

さすがに精緻に構成されている。序盤ではいかに金融リテラシーが必要かということが多くの資料を根拠に述べられている。読者は読み進めるうちに、コレはまずい、金融リテラシーを身につけないと!と思わされるに違いない。
そう。この本は、投資に関するあれこれを単純に列挙して売れるといいな、という軽い本ではない。現代の僕らを取り巻く経済事情の危機的状況を熟知し、投資に全くもって疎い一般市民への警鐘を鳴らす。そして「金融リテラシー」という防御策を説く。著者の世界の読み取り方があるからこそ、彼女のやり方も読者に届くのだと思う。

金融不安、サブプライム原油高騰や年金不安に日本経済の低調さと少子化がかぶさって、若者の将来への希望は暗い。経済が右肩上がりできていれば、こういった本は奇抜な本としてしか扱われず、ここまで売れることはなかったんじゃないだろうか。
そういう意味では、タイトルの『お金は銀行に預けるな』は秀逸だし、金融リテラシーの背後にある思考の根本は、現代社会の不安と見事にマッチしている。投資の知識のわかりやすい説明はもちろんだけど、それ以上に不安の顕在化とその解決策を見事に提示した良書、ということができるのかもしれない。


最後に、備忘録的に最終章の「資本主義のほころび」をところどころ引用しつつ、まとめておきたい。

資本主義が市場原理だけを追求していくと2つの課題が生じる。
①やる気に応じた資源配分が必ずしもうまく行かない。(富める国はいつまでも富み、貧しい国はいつまでも貧しい)
②社会的に正しくない行いがあっても、利益が出るところに投資される(食品偽装、公害、企業不祥事、環境破壊)

これらに対して政府は対策をうってきた。例えば、高度経済期の日本は地方への公共事業の投資や補助金、税制優遇で支援するなど。しかし、こうした累進課税、地方振興などの再配分施策は生産性を低める効果もあった。それは高度経済成長時
には吸収出来たのだが、バブル崩壊後はそうした再配分を行わない「小さな政府」に転換。(96年橋本政権時より)消費税増税郵政民営化三位一体改革に見られる財政支出を抑える政策へ。
こうした政策は、貧富の格差を拡大させ、世間を騒がせる不祥事を続出させるなどのひずみを生んでいる。

こうした資本主義との関わりにおいて、金融資産も住宅をローンで買い、生命保険と年金でリスクヘッジをする従来のやり方では自分の資産を守りきれなくなっている。
だからこそ、投資運用などの金融リテラシーを身につけなければならない。