アメリカの貧困を知る

ここ日本でも格差社会は徐々に重い課題として、社会に認識されつつある。それは小泉時代の民営化に端を発すると言われている。富めるものはますます富み、貧しいものはますます貧しくなる。この日本のバブル後からの不況脱出には、アメリカの好景気というものに後押しされていた感があったのだが、昨年アメリカでもサブプライムローンの焦げ付きが発覚し、それを期に経済の停滞が叫ばれている。

『ルポ 貧困大国アメリカ』という著書は、アメリカのひずみをレポートしている。その内容はあまりに衝撃的だ。日本以上に格差の進むアメリカで、今何が起こっているのか。ひたすらアメリカの背中を追いかけていた日本も知っておかなければならない現実が書かれている。


まず、議題にされるのが「サブプライムローン」。
過激な市場原理が弱者を食い物にした「貧困ビジネス」の一つ。ヒスパニックなどの貧しい移民に「アメリカはマイホームの持てる国だ!」という夢を与え(しかも大統領であるブッシュが!)暴走する市場原理に引きずり込まれていく。住宅価格が上がり続けると言うつかの間の夢で家を購入させ、経済を活性化させ、いざ破綻したら差し押さえ。ローンを組んだ貧乏人は、最終的にはただローン会社にむしりとられて、ますます貧困へと陥る。

それは「食」「教育」「暮らし」の様々なカテゴリーで吹き出している。
驚きなのは、アメリカ人の食。飽和社会の象徴のようなあのアメリカ人の肥満体型は、貧困そうにこそ見られると言う。つまり、栄養バランスのよい食事すらとれず、チケットを国から支給されるも口にすることが出来るのは、ファストフードや冷凍食品などの安価な食品ばかり。およそ6000万人のアメリカ人が、一日7ドル以下で暮らしていると言うから驚きだ。


この全ての元凶はいきすぎた民営化である。
医療も教育も国が担うべきサービスを市場原理に委ねてしまったために、利益を出すことが優先され、国民の生活は二の次。
若者の出口もふさがれ、貧しい学生はいやがおうにも戦争に駆り出される。高騰する学費を肩代わりする軍の甘い話に乗り、イラクに送られる若者も多い。さらには「戦争派遣ビジネス」もあって、そこではあたかもどこかの会社に派遣するかのようにイラクに人を送り込むのだそうだ。しかも戦死しても、軍人でないため犠牲者数は明らかにされない。大義がないと糾弾されるイラク戦争も、送られる側からすれば「お金のため、生活のため」なのであって、そこに正義などは介在する余地がない。まさに戦争は儲かるビジネス、として機能しているのだ。


ここからは個人の感想に過ぎないが…
9.11以降、グローバリズムの波で起きたことは、まさに資本主義・市場経済の力の増大であり、その巻き添えは知識と蓄えのない国民へとのしかかっているように見える。もちろん日本も他人事ではない。役人はダメだ!構造改革だ!と、すごく聞こえのいい言葉に安易に飛びつくことがどれほど危険なことか。そして現代では、それは巧妙に仕組まれて、全く気付くことなく搾取されている。今の原油だってそうだろう。産油国と投資家の儲けを、国民全体で支払っている感覚だ。誰も得をしない。
それは先日のエントリーにあるようなマネーの暴走ともつながっている。拝金主義が一時期、批判の的になったが、今はヒルズ族なんてそんな目に見えるちゃちなお金万歳、じゃなくて、より恐ろしい自分たちの生活を脅かしかねない、暴走が知らないところで始まっている。

どうしようもないのだろうか。
気分が滅入って仕方がない著作だった。