『明日の広告』佐藤尚之

コミュニケーション・デザインをメインに広告業界で働く著者による、まさに現在の広告論。

彼はネット黎明期からいち早く自らのページを立ち上げ(「さとなお」)、ネットの効力を十分に承知しており、その分発言にも説得力が増す。なによりも、まずは世の中が変化していることを知り、その変化をチャンスと捉えてポジティブに仕掛けていこうとする姿勢が好感が持てる。「明日」に込められた意図とはそういったものだ。


広告はモテなくなった。
なぜか。
理由はいくつかある。

  • メディアが増え、4マスだけに時間を割いてくれない。
  • 楽しいことが山ほどある。茶の間に座っていてくれない。
  • ネットで横に繋がり、商品を丸裸にする。広告を信じてくれない。

大きな変化はネットの登場だ。
ネットによって情報量が10年前に比べて410倍に増えた。たしかに黙っていても情報はじゃんじゃん押し寄せてくる。遮断しないとやっていけない。
そのくせにクチコミ(信頼する人のおすすめ)は簡単に信じたりする。消費者が一番信頼するメディアは、消費者自身なのだ。

ならば、どうやって消費者を広告と出会わせるのか。

これら全てを消費者の行動範囲に合わせてデザインする。戦略的に連携して、相乗効果を見込む。
そういったメディア配置を「クロスメディア」というそうだ。(ちなみに「メディアミックス」は古い言葉だそうな。ただ複数のメディアを合わせて使ってるだけだから)


そうやって消費者の行動を徹底的に分析して、それぞれのメディアを効果的に使うことで、ようやく広告を届けることが出来る。もちろんその広告の中身もクリエイティブでなければならない。
今の小中学生があと10年もして消費の中心に躍り出たら、ネットで評判を調査する行為は今以上に定番化し、イメージだけで商品を売ることは(つまり広告で化粧することは)ますます効きにくくなるらしい。

だからこそ、認知やプロモーションに気を配る。
そして「ネオお茶の間」。ツーウィンドウ時代(テレビを見ながらネットでリアルタイムに突っ込みをいれたり)。
リアルなお茶の間は消滅したが、ネットの中にバーチャルな人の集まりが出来ている。そこにめがけて広告を打つ。そんなことも想定に入れているのだ。


そして最後にコミュニケーションデザインを遂行するためには、一人では出来ない。手を挙げて人を募り、縦割りの体制を乗り越えて、各々の専門領域に領域侵犯して、チームを編成していくことを進めている。


彼がこの本を執筆した意図は、メディアに携わる人間から悲観論が多く聞かれているからだという。そこに対して、広告にはまだ「明日」がある。エキサイティングな時代を楽しもう、とのメッセージが節々に現れている。
雑誌なども過去のメディアのように扱われているが、広告という視点に限らず、まだまだ可能性の残された、というか新しい可能の生み出せるメディアなのだと思った。一つの専門領域だけに縛られていては、いい仕事はできない、そんなお手本のような本である。

読みやすいのでぜひオススメ。