『フリーペーパーの衝撃 』(稲垣太郎)

そもそもフリーペーパーなんてそれほど好きなわけではない。
たとえばばっちりターゲットに入っている『R25』よりも面白い雑誌なんていくらでもあるし、フリペだけ読んでよしとする同世代の男が(いるのだとすれば)おいおいちょっとまて、といいたくもなる。

広告に支配された予定調和の記事にしか見えない。興味を引くだけ引いて、深さはないし。

と、批判や毛嫌いならいくらでも出来るんだろうけど、M1層と言われる活字離れ世代にうまくアクセスしたこと、そしてそれは(ぼくのまわりの感じでは)見事に成功していることは、さすがリクルート!と思わされるばかりだ。

まぁしかし、ココ数年でこれでタダか!?というフリーペーパーが増えてきたことでも分かるように、創刊ラッシュでもあったのだ。
そしてこの本は、無料メディアが果たして出版業界のあり方を根底から変えるかというおはなしなのです。


中身はフリーペーパーの現状から創刊時の「メトロ」の苦労、「R25」など多方面からまとめているのだけど、以下に気になったところだけピックアップ!


フリーペーパーの生命線は流通形態。
流通形態について考えたのが、デリバリーミックス。一人の消費者でも場面ごとに複数の顔を持っている。無料誌が渡されるポイントこそが広告を伝達するのに重要なポイントになるのだ。(広告でなりたっているのだから)だからこそ、マスにない広告効果、リーチ力が無料誌にはある。
同時に無料誌は「動く交通メディア」でもある。(ウェアラブルメディア)


また紙媒体生き残りのヒントもちりばめられている。
紙媒体お喚起する二つのニーズのうち、「顕在ニーズ」(何を買いたいかが明確)。これはネットに取って代わられる。もう一つの「潜在ニーズ」こそが雑誌が喚起する種類の情報である。
かつて38万部を売り上げた『AB-ROAD』もネットに移行した。
旅行情報は顕在ニーズであり、今後はネットに移行していくという若者の動向にあわせての判断だった。


そして『R25』への言及。
首都圏で60万部。1号当たり2000万〜5000万。

「オンからオフのすき間」を狙う戦略が面白い。
団塊ジュニア世代は調査では、起きてから寝るまでどこにも新聞が入る時間はない。
その中でも特に「新聞・ネットで情報を得ようとするが消化不良の人たち」に「帰りの電車」でアプローチする。
つまり、オン(会社では仕事のことばかり)とオフ(週末は遊びのことばかり)の間の時間に、世の中の話題をネタに多少硬い記事でも読んでもらえるのではという狙いだ。
木曜発行もその現れ。記事の内容は2分で読める、地下鉄駅1駅分。


入念な調査に基づき、周到に計算された結果、導きだされた形態だ。



なんだかんだいって、一つのメディアとして確立された感がある。
使い方次第で、有効な広告媒体であることは間違いない。

フリーペーパーの衝撃 (集英社新書 424B)

フリーペーパーの衝撃 (集英社新書 424B)