『脳と日本人』

松岡正剛茂木健一郎の二人が、日本や世界、知識、普遍性、国家、宗教と広範な話題についてみっちり語り合った対話集。とにかく知識と洞察の深い二人だけに、時間も場所も自由気ままに話題が飛翔する。まず、その感覚が気持ちよい。

二人は現代日本のあり方に違和感を抱いていて、その点では立ち位置を共有しているんだけど、やはりそこには誤差があって、その違いが議論を生み出して、面白さを感じるところだ。

例えば、茂木さんは養老氏が『バカの壁』を書くに当たっての切実さを理解出来るというのだが、松岡正剛はそこには手厳しい。日本は住みにくいけど、まぁいいとこもあるし、好きかもね、という日本には興味がないという。松岡氏の心をとらえる日本は、伊勢神宮の日本であり『日本書紀』の日本であるのだろう。
最後では、こう語る。

ぼくは日本が大好きな日本人です。けれどもその日本を世界の多様な文化と混ぜて見ることはもっと好きなのです。そして、世界と日本を同時に見るような見方が必要な21世紀にたどりついたという想いがしています。

そして、世界を二分法で分けることへの限界を説き、21世紀の変化に対応するために「編集」作業の重要さを語る。

僕は多くの人たちに新たな「関係」を発見し続けてほしいと思っています.そして一人一人がその発見をどのようにあらわしたらいいか、よく考え、表現してほしい。

松岡氏のこの立場表明は、この対談が21世紀も8年を経過し、前世紀とは世界の見え方がずいぶんと変わってしまった今行われたからこそ意味があると思わせるのに十分な言葉ではないだろうか。世界も日本も多様性の中で、どこか何かを見失いつつある中で、松岡氏が再発見している歴史の中の日本の姿は現代のぼくらにヒントをくれる。

一方の茂木さんは、その溢れる野心で世界の多様性、あるいは問題のすべてを自ら引き受け、突進しようとしている。それはとてつもないことではあるのだろうと思うけど、それもまたこの多様世界の中で軸を生み出す大きな仕事の一端のように思えて、すごく共感が持てる。


いろんな話題が縦横無尽に繰り広げられるのだけれど、根底にある問題意識はとてもベーシックなものなんだろうと、読後改めて考えさせられた。

脳と日本人

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