「夜は短し歩けよ乙女」
「新釈 走れメロス」に続いて、「夜は短し、歩けよ乙女」を読んだ。
はじめに言ってしまうと、こっちの方が断然面白かった。
引き込まれる要因はなんと言ってもあの古風でユーモアのある文体。
一人突っ込み的な男性パートの語りには笑わせてもらった。少々町田康を連想させはしたのだけど。
さらに言うと、この人はちゃんと物語というものに意識的に取り組んでるんだなぁと思わされた。
どういうことか。
例えば、「ご都合主義」。ありがちなボーイミーツガールな構造を踏襲しながらもそこに対する批評性も持ち合わせているのだ。それは「ご都合主義」と登場人物が何度も発するところから分かる。
そして、語りの交代も大きな特徴だ。
この構造によって、好きな女性に対する男の「外堀を埋める」作業が、くっきりと描き出され、それはもうほんと滑稽なほどである。
乙女パートからみると、普通の先輩として描かれている男性も、その内面たるや空回りしまくりなのであり、でもそれってすごくリアル、だったりする。だから面白くもある。
その辺が実にうまくて、二人が抱き合うシーンは、「物語内物語」のしかも「ト書き」で語られる。
そこに感情はない。ト書きだから。
そのことで、読者は事実として二人の接近にほっとするし、同時にこの小説が単なるラブストーリーに陥らないことにもほっとする。
こんなに情けない男が、抱き合ったりしてはいけないのだ。
青春はそんな単純なものではない。
だからこその、演劇台本中のト書き、である。
この感じはもう映像では表現できないことであり、
小説の力、と言ってもいいくらいではないだろうか。
そんな細かな配慮があってこそ、ラストまで楽しませる。
それが、読後のなんとない気持ちよさにまで繋がっていくんだろう、と思わされた。
他の作品も、ぜひ読みたくなった。