『強欲資本主義 ウォール街の自爆』神谷秀樹

強欲資本主義 ウォール街の自爆 (文春新書)

強欲資本主義 ウォール街の自爆 (文春新書)

長年NYに住み、ゴールドマンサックスでも仕事をしてきた投資銀行家の著者が
なぜ金融危機は起き、何が問題だったのかを「強欲資本主義」批判を主軸に
解明する。



ぼくの社会人生活と資本主義経済の並走


社会人になってから一気に経済と交わる機会が増えた。
その時期は「小泉-竹中改革」、つまり金融緩和の時代にちょうど重なる。


就職した年は(2003年)は氷河期で「失われた10年」を引きずっていた感があったが、同時にホリエモンや村上氏が「会社は株主のもの」という強力なメッセージを携えて登場、そして去って行った時期でもあった。


そんな中、しだいに格差社会が叫ばれ、富裕層も出現。
富裕層向けの雑誌も興隆を究め、「LEON」などもこの世の春を謳歌
自分の預金は自分で守れとばかりに、「お金は銀行に預けるな」がウケ、円キャリートレードも流行り、自分でもFXやデイトレードに手を出す。しかし大損。
働き方も多様化し、「派遣の品格」なんてドラマが出ているうちはまだ冗談でよかったけど、不況に入りこれが企業の調整弁の扱いでしかないことも露見。
蟹工船」なんて本が今更流行ったりもする。


お金がじゃぶじゃぶで、金を生むように動いていかないと損をするのは自分で、社会の拝金主義に軽く踊らされ、その余ったお金を手にするためにゲームに参加するも、結局富めるところにしかお金は集まらない。そんな構造。



強欲資本主義、サブプライムから次の時代へ

・神谷氏は強欲資本主義ともいえるアメリカ・ウォール街金融工学を厳しく批判する。
「今日の儲けは僕のもの、明日の損は君のもの」主義。出資先企業のキャピタルゲインを出すためだけを目的に、社会貢献や事業を作る意思はゼロ。ひたすらコストカットで社員を減らす。この歪んだ株主中心主義が、アメリカからモノ作り精神を失わせ、産業を破壊したという。さらに破産しても、ツケを払わされるのは国民の税金なのだ。

こんなひどい話はない。彼らはゲームで勝つことを目指し、そこには崇高な理念などは皆無なのだ。


そして、サブプライムと金融不安である。
サブプライムの原因を作った国を著者は二ヶ国挙げる。
それはアメリカと、日本。
過剰の流動性をばらまき、国民に借金をしてまでの「浪費」を促したアメリカ。
そして、ゼロ金利、円安、バブルの処方箋はバブルを作る、を実践してきた日本。たしかに金余りによって、アメリカの消費は右肩上がりになり、日本・中国の輸出は伸び世界経済は潤った。しかし、それは「砂上の楼閣」なのだ。


彼はさらに「バブルの崩壊にいかに立ち向かうか」にも言及する。
そもそも経済成長を「借金のより浪費」でカバーしようとすることは間違いであるとし、「ゼロ成長論」を指示する。
アメリカ追従の政策(「格差は正しい」「東京を金融都市にしよう」)によって、「信用の輪」が切れたのだと。


そして


「日米という世界一、二位経済連合時代の終焉」を明確に自覚すべきである


と断言している。


「日本は少子高齢化が進み、家も自動車も少なくて足りる」のだから
「ゼロ成長時代の生き方」を模索するべきだと。


現首相が会談でしきりに経済1位2位と謳うことへの気持ち悪さもあって
「ゼロ成長時代」認識にはすごく共感することが出来た。
経済成長なくして豊かな生活は送れない、なんてことはない。
なぜなら成長していたここ何年かの間も社会問題は山積みになっていったのだから。


アメリカはオバマの登場で変わろうとしている。日本が取り残されないか、新しい基盤を築くことができるか、少々不安ではあるが。。



いずれにしても、この不況が何年か後から観た時に、
「社会を改善するよいきっかけだった」といわれる時代がくればよいと思う。


雇用も企業も消費者も政治もけっこうずたずただけど、
拝金主義がまかり通る社会じゃなくて、変革の時代へ。
そんな萌芽を探して行きたいと思わされる著作だった。