『最後の冒険家』石川直樹

熱気球で太平洋を横断しようとした、ある冒険家の物語…などと片付けられるほどこの本は単純な冒険鐔ではない。


著者の石川直樹は熱気球冒険家の神田道夫のパートナーとして、太平洋横断に挑戦する。


だがその気球は、貯水タンクを改造したゴンドラに手縫いのバルーン。読んでいる側が心配になるほど手作り感溢れる代物で、地上1万メートルへと飛び出すというのだ。
それだけでも驚きなのにそこにいくつものアクシデントが重なる。
温度計の故障。内装アルミの溶解。そして、熱気球は太平洋のど真ん中に着水してしまう。荒波の中に投げ出され、ゴンドラに水が浸水する。無線で「救助まで3日かかる」と連絡が入る。
…それは想像しがたい恐怖のはずだ。


石川直樹の文体があまりに淡々としていてさらっと読めてしまうのだけど、まさに「冒険家」は死と隣合わせであることをまざまざと思い知らされる。


一般の読者は(僕もだけど)こんな危険な目を犯してまでなぜ冒険に出ないと行けないのだ? と思ってしまう。
そんなシンプルな疑問に石川は
「(神田にとって)気球に乗っている時こそ生きている実感を得ることができた」といい、冒険とは「自らの生と直結するアイデンティティそのもの」だと答える。


冒険家は「生きながらにして死ぬ道を選ぶ」。
この壮絶な言葉に、「衝動とはなにか」と考えずにはいられない。


ただ言えることは、行方不明になった神田が石川直樹という「語り部」を得ることが出来たのはとても幸せなことだったということだ。


最後に起こる信じられないような奇跡に、神田の想いの強さを思った。

最後の冒険家

最後の冒険家