『ゴールデンスランバー』伊坂幸太郎

伊坂幸太郎の作品は現代作家の中では割と多く読んでいる方なのだけど、その中でも今作は面白い!と人に間違いなくオススメできる快作ではないかと思う。まぁだからこそ「本屋大賞」を受賞しているのだろうけど。


ゴールデンスランバー」とはビートルズの「アビイロード」の中の一曲で、総理殺害の陰謀にまきこまれ仙台中を逃亡することなる主人公が、その危機を知らせてくれる友人から聴かされる歌という役割をもつ。


この作品は冒頭から一気に読ませる。
そのスピード感に意表をつかれるほどだ。

これほどたたみかけるように読者を引っ張って行く物語構成はこれまでの作品からも際立っていて、今作への作家の力の入れようが伝わってくる。


帯には「現時点での集大成」とあるけれどまさにその通りで、
彼の文体はちょっと気障ったくてそれが好きになれるかなれないかが
そのまま作品を好きになれるかなれないかに直結していたところが大きいと思うのだけど、
これまでの作品のように「過剰な直喩の会話体」、つまり登場人物のセリフ回しとキャラクターに寄りかかることなく、純粋なストーリーテリングと見事なまでの伏線&その回収に精力が注がれている。もちろん絶妙な会話のテンポには磨きをかけつつ、である。


でも、僕がこの作品を、あるいは伊坂幸太郎作品に良さを感じるのは
物語のうまさだけではない。
なんというか、登場人物たちが「友情」とか「信頼」とか
とても恥ずかしくてストレートには語れない青臭いものを
信じきっているところにある。

だから読んでいてすがすがしい気持ちになる。


そして、それは過去から連綿と受け継がれているものなのだ。


今作でも核になるのは学生時代のたわいもない会話や友情だったりする。


だから人が死んでいるのに、冷たさがない。
スリリングさはあるけど、同時に温かさもある。


改めて、すげーなぁと思わされた。


ちなみにまだ読み終わってません。読んでいる途中のこの興奮を書き留めたくて、現時点で書き込みました。


もし物足りない点を挙げるとするならば、
まだ評価の定まらない新人バンド(たとえば『重力ピエロ』とかね)ではなく、売れてるバンドのベスト盤を聴くような安心感、かもしれない。


それと…
こんなに誰が読んでも面白いだろうものを
目利きの書店員がオススメする必要もなかろうに。
と、言い尽くされたことかもしれないけど、やっぱり思ってしまった。。

ゴールデンスランバー

ゴールデンスランバー