『幻影の書』ポール・オースター

いや〜読みっぱなしになっていた読書記録を一気にアップ!

そういえば今日書店で、
「ノートにまとめなさい」系列の類書、「読んだ本は一冊のノートに」という読書術の本が出ていた。2匹目のドジョウっているんだな〜


さて。
帯には「アメリカでもオースターの最高傑作と絶賛」との言葉。アメリカで絶賛=面白いという図式が必ずしも当てはまらないのが、オースターの魅力だったりもするのであまり煽られることもなく、購入。


内容は、家族の不幸に見舞われた主人公が自らの救済のために1人の喜劇俳優の本を書くことから、その俳優の遺作映画をめぐっての事件に巻き込まれて行くという全編に不思議さのただよう物語。

オースターの魅力の一つであるストーリーテリングの素晴らしさが存分に発揮されていて、不思議な話でありながら気付けば物語にのめり込める。
ラストまで一気に読ませるプロット力、文章力は相変わらずだ。


さらに、オースター得意のメタ構造は今回も取り入れられていて、物語内で登場する映画はまるで完璧な台本のように再現される。


そんな今作のキーとなるのが、「消失することを前提に作られた映画」というテーマ。


俳優ヘクターが撮り溜めた映画は、彼の死と同時に消去されることが宿命付けらている。その非-存在を担保とした「存在」という概念はこれまで何度もオースターが扱ってきたテーマで、幽霊のような存在の危うさ、現実感のなさ、全編ただよう喪失感は、著者の持っている現実世界では何でも起こりうるのだという思想の表れに他ならない。


オースターに見えている現実世界の「偶然性」や「不可思議さ」は、彼の書く物語に不思議なリアリティを与えているように思う。

だからこそ読者は、その物語に安心して身を委ね、「存在」の在り方について夢想することが出来るのだろう。

幻影の書

幻影の書