BUMP OF CHICKEN 『orbital period』
コンポのスタートボタンを押し、ブックレットを一枚めくるだけで
バンプの世界に引き込まれてしまう。
そんな完成された哲学と世界観に彩られた傑作アルバム、それが今作『orbital period』だ。
これまでも君と僕の間に横たわる「小さくて卑しい自我」を曝け出しながらもそれを大切なものとして肯定し続けてきたバンドであったが、今回はそれがさらに的確で丁寧に描かれている。
「平凡」で「取るに足らない」、「死にたい」と思うけどやっぱり「生きていたい」と思わざるをえない弱い自分を、徹底的に曝け出す。でもそんな弱い僕らが集まって、世界が出来上がっていること、それはなんでもないことなんだという「なんでもなさ」にこそ、彼らは目を向けている。
視線が常にあたたかい。
自分を痛いくらいに徹底的に見つめて見つめて、そこから出てくる卑小な自我。
どんどん「自己」の方に寄っているはずなのに、それが個人的出来事ではなく若者の共通の体験として唄になってしまう時代。自分だけが平凡で汚れてしまって、でもピュアで一生懸命生きているんだという再確認。
世間を斜めに見てみるけど、結局は自分に正直な気持ちがあったでしょう?肯定してあげるのは、自分しかいないでしょう?というストーリー。
彼らは聞き手と唄の間に横たわる空間に世界を作り上げる。
しまわれていた個人の思いや体験を糧にして。
そのスイッチを入れることが出来るのが、
彼らの持つ唄のピュアさではないか。
そのためのバンドの物語性を補完する装置はいくつも仕掛けられている。
アルバムのブックレットもそうだ。
ブックレット中の「星の鳥」という物語が読まれることで、アルバムの曲が重層的に聞こえてくるのだ。
「自我」と「世界」の距離感を描き出した音楽。
その完成度の高さでいったら、今作は最高傑作と言えるだろう。
彼らが若者の言葉の代弁者であるということが、この時代を象徴する出来事であるように思える。それはなんだかしっくりこないところもあるのだけど、それはまた別の機会に。